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  • 2023.09.20

2023年度 桑名高校衛生看護科の皆さんへ - 副院長より20

桑名高校衛生看護科の皆さんへ。精神科講義資料です。あくまで、話す内容のポイントを箇条書きしたものです。省略したため正確でない表現もあるかもしれません。ご了承ください。考査で出題する内容(三題)に関連する部分を赤字で追記しました。



まず、精神疾患の診断分類をおおまかに説明します。

睡眠覚醒障害はあらゆる精神疾患に関係します。不眠が精神疾患の始まりであることは多いです。主要な精神病として、統合失調症と双極性障害(躁うつ病)があります。

いわゆるノイローゼ(神経症)と言われるような状態として、抑うつ障害(うつ病)、不安症(パニック障害や対人恐怖症など)、強迫症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、解離症(多重人格やヒステリーと呼ばれたもの)、身体症状症(心身症、心気症と呼ばれたもの)などがあります。

そして環境素因も重要なもので、摂食障害、物質関連障害および嗜癖性障害(薬物、アルコール依存、ゲーム、ギャンブル等)、パーソナリティー障害があります。

老年期の精神疾患として神経認知障害(アルツハイマー、脳血管性、レビー小体型などの認知症)があり、小児の精神疾患として、神経発達症(知的障害、自閉スペクトラム症、ADHD、チック等)があります。

すべての精神疾患に言えることですが、症状と病気1対1で結びつくわけではなく、妄想があったからといって統合失調症と断言はできません。また、正常と異常は連続(スペクトラム)しており、ここから病気、ここからは病気でないとはっきり言うことは難しいです。


診察に際してまず意識の有無、呼吸、脈拍、血圧、体温を確認します。尿量、排便、食事量も大切です。身体の震え、けいれん等も観察します。

鑑別診断を考えるにあたって、精神症状で発症する身体疾患も念頭におきます。

外因→内因→心因の順で原因を探します。まず身体疾患(外因)を鑑別する(脳炎などの感染症、脳腫瘍、膠原病/自己免疫疾患など)。次にうつ病、統合失調症(内因)などを疑い、最後に心因性の疾患、解離症などを疑います。

心因性の症状=「困っていること」には「ひととなり、人間性、生き方」が表れています。

ある種のカルトは視野を狭め、「この道しかない」と追い詰め、自分で考えられないようにします。精神療法はその逆です。視野や考え方を広げ、自分で立ち直っていけるようにしていきます。




1意識障害
JCSの2ケタは大声で呼べば目を開ける。3ケタは叩いても目を開けない状態。

単純に意識がなくなることを昏睡(coma)。対して昏迷とは、意識はあり、意識障害ではないが、目を開けず体も動かさない状態(意欲の障害)。

一方で、複雑な意識障害もあります。錯覚や幻覚を伴うものでせん妄と呼ばれます。たちの悪い寝ぼけや夢遊病のようなものです。術後せん妄のように環境の変化も相まって起こるものや、入院中の認知症高齢者に多い夜間せん妄は頻繁に遭遇します。

アルコール多飲者が入院して急にお酒を断った後に数日してから起こる震戦せん妄はお酒の離脱症状(飲酒中には起こらない)


2知覚の障害
幻聴と幻視が大切です。幻聴は統合失調症で多いですが、重症のうつ病や躁うつ病でも認めます。幻聴の命令にしたがって行動してしまうことがあります。つまり幻聴は受身的な体験です(何かに影響を受ける体験→自我意識の障害でもあります)。 一方で幻視は能動的なものが多いです。主な原因は中毒性、症状性、器質性精神疾患です。例えば、違法薬物による中毒、アルコール離脱せん妄(震戦せん妄)、レビー小体型認知症です。


3思考の障害
思考過程の異常
躁うつ病の観念奔逸と統合失調症の滅裂思考の区別が重要です。
観念奔逸は常識で理解しやすい論理の飛躍ですが、滅裂思考は、考えが全くまとまっておらず、話題の相互関連性がなく本人にしか通じません。

思考内容の異常
うつ病や躁うつ病(双極性障害)などで認める妄想は、理由が推測しやすいので二次妄想と呼ばれます。認知症で多い嫉妬妄想は、身体の衰え(歩けない、目が見えない)から配偶者の浮気を疑うといった理解しやすい二次妄想です。 統合失調症においては、何の理由もなく妄想が生じるため一次妄想と呼ばれます。何の前触れもなく「自分は宇宙人から地球を救う使命を受けた」と感じるなど、本人以外には理由が理解できません。

思考体験の異常
強迫観念とは、無駄と分かっていても考えずにはいられないこと(何回でも手を洗いたい)で、強迫行為とは、実際に何百回と手を洗ってしまうことです。無駄だと分かっていてもやめられません。強迫症だけでなく、統合失調症、自閉スペクトラム症でも起こることがあります。

自生思考とは勝手に考えが浮かんだり、好きでもないメロディーが頭の中で鳴り続ける状態です。統合失調症の前触れのことがあります。

自分の行動をコントロールできず、誰かに操られていると思う体験(させられ体験)には以下があります。①させられ思考は、自分の主体性が損なわれ、外部の何かに操られていると感じる状態です。②思考奪取は「自分の考えが抜き取られて無くなった」という体験。思考吹入は「外から考えを吹き込まれる」こと、③思考伝播は「自分の考えが周囲に漏れ伝わってしまう」こと。これらは自我意識の障害でもあります。統合失調症で生じます。


4感情の障害
不安発作(不安症、特にパニック症)や、抑うつ気分(うつ病)、爽快気分(双極性障害、躁うつ病)が大切です。躁うつ病の爽快気分とは気分がハイになっていますが、必ずしも楽しいわけではなく、刺激に反応しやすく(易刺激性)、苛々した状態です。


5意欲・行動の障害
躁病性興奮は躁うつ病の観念奔逸から生じ、緊張病性興奮(精神運動興奮)は統合失調症の滅裂思考から起こります。考えがまとまらない程度があまりに酷いと、逆に全く動けなくなり、(緊張病性)昏迷に陥ります。重度のうつ病で、何も考えられないほど意欲が無くなっても、昏迷になります。


6自我意識の障害
外界と自分、意識と無意識の区別がなくなってしまいます。前述のさせられ体験や、苦痛を感じないために、苦痛を感じているこころの部分を切り離す解離症は自我意識の障害です。解離症はひどくなると記憶喪失や二重人格を引き起こします。




A 神経発達症群

知的障害、自閉症スペクトラム、注意欠如多動症(ADHD)はしばしば合併することがあります。特に問題となるのは感情をコントロールしにくいケースです。 → 刺激を減らし周囲の環境を整えることがまず治療対応として重要です。

知的障害
抽象概念が扱えるか(大きな額のお金を扱えるか、明日、1週間後といった未来の計画を立てることができるか)、その結果として、自立して生活できるかが、一つの目安になります。

自閉スペクトラム症
他人の心が読みにくいため、周囲とうまく関われないことが多いです。
感覚過敏(気にしない部分は鈍感、細部に拘り全体が把握できない)がベースにあって、社会的コミュニケーション、対人的相互反応における持続的な障害、興味や活動が限定的で反復的といった特徴が生じます。

注意欠如多動症(ADHD)
衝動性が強く、すぐかっとなって喧嘩してしまうことがしばしば問題になります。
大人のADHDの場合、特に女性で不注意優位のADHDが見過ごされがちです。自己質問紙などでスクリーニングします。



B 統合失調症  

脳の働き(考え、気持ち、意欲行動)がまとまらなくなる病気です。
(P35 自我意識の障害も参照)

幻聴と妄想が生じるのは
内界では→ 自生体験(内的欲動を制御できない)→ 自己不全感と恐怖
外界には→ 感覚過敏、気づき亢進、しだいに被注察感(不要な情報を遮るのが困難、どれが大事か、取捨選択しにくい)

自生体験(自生思考)はP32思考体験の異常も参照
被注察感は注察妄想、P31妄想の内容による分類も参照

P74表3-2「統合失調症の病期と治療内容」を参考にして、統合失調症の急性期、回復期に対する適切な治療対応を考えてください。薬の副作用も注意(パーキンソン症状、鎮静、体重増加、高血糖など)

 急性期には、本人の訴える幻聴や妄想を否定しない。「私たちにはわからないが、あなたにはそう聞こえるし、思えるのですね」というスタンスで、「医療者は味方であり、あなたは安心して休んでいいのだ」ということが伝わるように接する。

 回復期以降は、疾患教育として例えば、対人関係で被害的になりやすいくせを修正したり、嫌なことをうまく断ったりするための心理療法等も行っていく。
 服薬は必要だが、手が震えるなどのパーキンソン症状が出たら、医師に減薬をお願いしたり(ここでも対人関係のスキルが重要)、薬の副作用で太ったり、生活習慣病になることも留意が必要。


(参考)中井久夫著「こんなとき私はどうしてきたか」は統合失調症だけに限らず精神看護の姿勢を学ぶのにとても役立ちます。とても実践的なので深く知りたい方へ。




C双極性障害(躁うつ病)

躁うつ病(エネルギーの無駄遣い)とうつ病(エネルギーが枯渇)は異なる疾患です。
躁うつ病ではエネルギーの配分をコントロールできないのに対して、うつ病はそもそも使うエネルギーがない状態。
躁の誇大妄想  苛々しながら逸脱行為があり、時に生命の危険があります。
うつの罪業妄想 趣味も楽しめない。生きることに飽きて退屈。自殺念慮。


うつ病や不安症などの発症プロセスには、自律神経(自分の意志とは関係なく生命維持のため働く神経)の異常が関与しています。自律神経には運動時に主に働く交感神経と、休息時(リラックスしている時)に働く副交感神経があります。過度のストレスによる交感神経の亢進から、イライラや緊張が続き、抑うつや不安が慢性化していきます。



D抑うつ障害(うつ病)

重症度の評価 → 自責感から自殺念慮へ
入院治療の条件 心理教育、認知の歪みを修正する認知行動療法も大切
Eの不安症と共存、 Iの身体症状症と症状が重複

P85 治療導入時の心理療法的配慮
うつ病とは何かを伝える(疾患教育 なまけではなく脳の病気)
睡眠の確保、脳の休息。周囲のサポートを得て一人で考えない。別の視点を導入。
(追い詰められて「死にたい」、「消えたい」以外の選択肢が頭に浮かぶように)
症状は一進一退、波がある。自殺禁止。重大な決定(転職、離婚など)は先送り。
薬の副作用(多いのは吐き気、便秘等)も注意。



(参考)笠原嘉(みよし)著「軽症うつ病」は一般書なので安いし、とても読みやすいのに、名大精神科の医局で研修医に配るくらいちゃんとした教科書です。




E不安症

パニック症 ー 過呼吸(喘息との鑑別)、胸苦(狭心症との鑑別)

社交不安症 ― 対人恐怖

全般不安症 ― 過覚醒、過度の筋緊張→複雑性PTSDが隠れていることも。



F強迫症

無駄だと分かっていてもやめられない
不安を伴わないこともある。病識がない場合もある チック症との類似
P31思考体験の異常を参照




G心的外傷後ストレス障害PTSD (P100-101が重要です)

①再体験      無意識にトラウマ体験を思い出す
②回避     無意識に被害を忘れようとして記憶や感情が損なわれる(麻痺)
③過覚醒      不眠、苛々、ちょっとしたことに過剰に反応、警戒心が強い

 大きなトラウマを受けた場合、人に話せません。①再体験症状は口にできず、それに関する記憶や感情は、②回避によって、あいまいになります。
 しだいに、不自然なイライラ、かんしゃくを起こしやすい(③過覚醒)といった形で対人関係に支障をきたすようになり、一方で、自分は罪深いから不幸になって当然(認知の歪み)と考えて、抑うつを呈します。だんだんと、自然な愛情を感じられず、交友関係を築けなくなっていきます。


単回のトラウマではなく、養育者による虐待等によって慢性的に進行し、本人が自覚しにくいものとして複雑性PTSDがあります。その場合は被害から数年以上たって、被害を自覚できるようになってから発症することもあります。

PTSDは誰でも起こり得る症状であり、被害を受けた当初は、「仕方なかった」、「あなたに落ち度があるわけではない」ことを理解してもらう。安心できる場所があり、支えてくれる仲間がいる環境を作る。そのうえで自分自身に対する信頼を取り戻し、トラウマに向き合えるようにしていくことが治療の最終目標です。


(参考)白川 美也子著「赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア 自分を愛する力を取り戻す〔心理教育〕の本」が非常にお勧めです。複雑性PTSDの治療について一番簡単で詳しい本だと思います。
 ティム・オブライエン著 村上春樹翻訳「本当の戦争の話をしよう」も、村上春樹をある程度読んでいる方に特にお勧めします。PTSDについての古典的名著、ハーマンの「心的外傷と回復」に多く引用されているフィクションの体裁のノンフィクション。これらはすべて桑名市図書館、ないし中規模の図書館にあります。



適応障害は何らかの環境ストレスによって、うつ、不安症に似た症状を呈します。

反応性愛着障害、脱抑制型対人交流障害は、養育環境が劣悪なために、人との関わりがうまくできず自閉スペトラム症と似た兆候を示します。



H解離症

苦痛を感じないために、心のある部分を切り離す
P35 自我意識の障害と、P105人の一貫性と解離を比較して読んでください。



I身体症状症

身体症状症 胃が痛くて精神的にもつらい
病気不安症 胃が痛くならないか考えすぎて精神的につらい
変換症 解離によって身体症状が起きる



J摂食障害

ボディイメージの障害
拒食症と過食症は交互に繰り返すことが多い。
幼児期の環境要因(虐待など家族関係の問題)が先行因子として重要。
持続因子として、家族の心配、高い感情表出(親の高い期待、ないし叱責)

身体合併症
拒食症では、やせ(るいそう)、無月経、除脈、低血圧。
栄養不足による浮腫(むくみ)、腎機能障害、肝機能障害
過食嘔吐の繰り返し、下剤の乱用があれば、電解質異常(低カリウム血症)から不整脈。
精神面でも頑固さ、融通の利かなさ、抑うつ、不安、こだわり(強迫症状)が出現

治療対応
患者の不安を受け入れ、太ることへの恐怖感を傾聴。あたたかく忍耐強い態度、一貫性のある態度で接する。



K睡眠覚醒障害

入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒のどれか1つ以上があり、日常生活に困る状態。
高齢者は睡眠時間が減る。特に男性では前立腺肥大による排尿覚醒が増える。



L依存症(物質使用、嗜癖)

アルコール、薬物、ギャンブル、ネット依存、買い物依存、窃盗癖
暴力、虐待、性的逸脱行動、摂食障害も依存、嗜癖の側面があります。

薬物依存

アッパー系  覚せい剤、コカイン、ニコチン、カフェイン
脳の働きを活性化→切れると神経過敏になり不安、妄想も

ダウナー系  モルヒネ、ヘロイン、アルコール、睡眠薬
脳の働きを抑え不安を和らげる→切れるとけいれん、幻覚も

サイケ系 大麻、MDMA、LSD


アルコール依存症の死因としては、飲酒して転倒を繰り返すことによる慢性硬膜下血腫。アルコール性肝硬変から、食道静脈瘤の破裂による出血性ショックが重要。

治療法としては、自助グループへの参加を促します。
断酒会、AA、ダルクなど。病院に当事者会、アルコール専門のデイケアも。

(参考)松本俊彦著「世界一やさしい依存症入門」が非常にお勧めです。桑名市図書館にあります。



M神経認知障害

記憶障害、見当識障害がしだいに進行していくのが認知症、急激に起こって原因が取り除かれたら治るのがせん妄。最初から知能が低いのが知的障害です。時間経過による症状の変化に留意。

せん妄
基礎疾患の治療を優先する。
適切な睡眠、適切な薬剤の投与(不要な薬剤の中止)

認知症
アルツハイマー型が6割だが、次いで脳血管性、レビー小体病(幻視、パーキンソン症状がある)、前頭側頭型(性格変化がみられる)が多い。


高齢者のうつ病でも見かけ上の記憶障害が起こります。認知症との鑑別が必要。
うつ病では、自信がないため、分かる質問にも「わかりません」と答えがちですが、認知症の場合は、わからないことを誤魔化そうとして作話をする(でたらめな答を自信満々で答える)場合があります。



N境界性(情緒不安定性)パーソナリティー障害

P138 表3-10参照。
大雑把に言えば、社会で生きていくスキルが身についていない人たちを指します。
自閉スペクトラム症や複雑性PTSDとの鑑別が非常に難しいです)

両親との関わり、友人関係、異性との関係という発達段階を通過していないことが多く、自他の考えを区別できていない。人間には善悪両面があることを理解しがたい。
自らの中の悪を他者に投影する(押しつける)傾向があります。


見捨てられ不安(捨てられるのを恐れるあまり、恋人が自分を見捨てると非難)
理想化とこき下ろし(要求が次第に大きくなり、要求が通らなくなると非難)

スプリット思考
最初は患者が「治すために入院したい」というから入院になった。しかし入院すると「苦しいから退院したい」、主治医が「入院させようとする」と主張。「退院したい」気持ちも「入院したい」気持ちも患者のもの。だから患者に返す。退院したければ自分の判断で退院させる。

治療対応としては、今、ここで。具体的な生活場面で現実の問題を扱う。内省できるまで待つ。自分で気づけるよう手助けする

問題のすり替えに治療者が気づく。
生育歴、過去の親子関係より、現在の友人関係、恋愛、仕事、体の不調を取り上げる。
自傷他害、退行的な行動より、具体的な生活場面を取り上げる。「どうして手首を切ったの」→「学校の人間関係でどのように困っていたの」

大変な問題だと共感はするが、具体的なアドバイス、批判は控える。
→治療目標を明確に(手首を切ることを減らす 薬物乱用を減らす)
患者の気持ちを引き受けすぎない。最終的には患者に主体性、責任を負わせる。



自閉スペクトラム症とパーソナリティー障害の鑑別は重要。両者とも風変わりで理解しがたい人々であることが多いが、自閉症では集団行動の型にうまくはまると次第に落ち着くことが多い。一方、パーソナリティー障害は型にはめられると激しく拒否する傾向があります。
桑名高校衛生看護科の皆さんへ。精神科講義資料です。あくまで、話す内容のポイントを箇条書きしたものです。省略したため正確でない表現もあるかもしれません。ご了承ください。考査で出題する内容(三題)に関連する部分を赤字で追記しました。



まず、精神疾患の診断分類をおおまかに説明します。

睡眠覚醒障害はあらゆる精神疾患に関係します。不眠が精神疾患の始まりであることは多いです。主要な精神病として、統合失調症と双極性障害(躁うつ病)があります。

いわゆるノイローゼ(神経症)と言われるような状態として、抑うつ障害(うつ病)、不安症(パニック障害や対人恐怖症など)、強迫症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、解離症(多重人格やヒステリーと呼ばれたもの)、身体症状症(心身症、心気症と呼ばれたもの)などがあります。

そして環境素因も重要なもので、摂食障害、物質関連障害および嗜癖性障害(薬物、アルコール依存、ゲーム、ギャンブル等)、パーソナリティー障害があります。

老年期の精神疾患として神経認知障害(アルツハイマー、脳血管性、レビー小体型などの認知症)があり、小児の精神疾患として、神経発達症(知的障害、自閉スペクトラム症、ADHD、チック等)があります。

すべての精神疾患に言えることですが、症状と病気1対1で結びつくわけではなく、妄想があったからといって統合失調症と断言はできません。また、正常と異常は連続(スペクトラム)しており、ここから病気、ここからは病気でないとはっきり言うことは難しいです。


診察に際してまず意識の有無、呼吸、脈拍、血圧、体温を確認します。尿量、排便、食事量も大切です。身体の震え、けいれん等も観察します。

鑑別診断を考えるにあたって、精神症状で発症する身体疾患も念頭におきます。

外因→内因→心因の順で原因を探します。まず身体疾患(外因)を鑑別する(脳炎などの感染症、脳腫瘍、膠原病/自己免疫疾患など)。次にうつ病、統合失調症(内因)などを疑い、最後に心因性の疾患、解離症などを疑います。

心因性の症状=「困っていること」には「ひととなり、人間性、生き方」が表れています。

ある種のカルトは視野を狭め、「この道しかない」と追い詰め、自分で考えられないようにします。精神療法はその逆です。視野や考え方を広げ、自分で立ち直っていけるようにしていきます。




1意識障害
JCSの2ケタは大声で呼べば目を開ける。3ケタは叩いても目を開けない状態。

単純に意識がなくなることを昏睡(coma)。対して昏迷とは、意識はあり、意識障害ではないが、目を開けず体も動かさない状態(意欲の障害)。

一方で、複雑な意識障害もあります。錯覚や幻覚を伴うものでせん妄と呼ばれます。たちの悪い寝ぼけや夢遊病のようなものです。術後せん妄のように環境の変化も相まって起こるものや、入院中の認知症高齢者に多い夜間せん妄は頻繁に遭遇します。

アルコール多飲者が入院して急にお酒を断った後に数日してから起こる震戦せん妄はお酒の離脱症状(飲酒中には起こらない)


2知覚の障害
幻聴と幻視が大切です。幻聴は統合失調症で多いですが、重症のうつ病や躁うつ病でも認めます。幻聴の命令にしたがって行動してしまうことがあります。つまり幻聴は受身的な体験です(何かに影響を受ける体験→自我意識の障害でもあります)。 一方で幻視は能動的なものが多いです。主な原因は中毒性、症状性、器質性精神疾患です。例えば、違法薬物による中毒、アルコール離脱せん妄(震戦せん妄)、レビー小体型認知症です。


3思考の障害
思考過程の異常
躁うつ病の観念奔逸と統合失調症の滅裂思考の区別が重要です。
観念奔逸は常識で理解しやすい論理の飛躍ですが、滅裂思考は、考えが全くまとまっておらず、話題の相互関連性がなく本人にしか通じません。

思考内容の異常
うつ病や躁うつ病(双極性障害)などで認める妄想は、理由が推測しやすいので二次妄想と呼ばれます。認知症で多い嫉妬妄想は、身体の衰え(歩けない、目が見えない)から配偶者の浮気を疑うといった理解しやすい二次妄想です。 統合失調症においては、何の理由もなく妄想が生じるため一次妄想と呼ばれます。何の前触れもなく「自分は宇宙人から地球を救う使命を受けた」と感じるなど、本人以外には理由が理解できません。

思考体験の異常
強迫観念とは、無駄と分かっていても考えずにはいられないこと(何回でも手を洗いたい)で、強迫行為とは、実際に何百回と手を洗ってしまうことです。無駄だと分かっていてもやめられません。強迫症だけでなく、統合失調症、自閉スペクトラム症でも起こることがあります。

自生思考とは勝手に考えが浮かんだり、好きでもないメロディーが頭の中で鳴り続ける状態です。統合失調症の前触れのことがあります。

自分の行動をコントロールできず、誰かに操られていると思う体験(させられ体験)には以下があります。①させられ思考は、自分の主体性が損なわれ、外部の何かに操られていると感じる状態です。②思考奪取は「自分の考えが抜き取られて無くなった」という体験。思考吹入は「外から考えを吹き込まれる」こと、③思考伝播は「自分の考えが周囲に漏れ伝わってしまう」こと。これらは自我意識の障害でもあります。統合失調症で生じます。


4感情の障害
不安発作(不安症、特にパニック症)や、抑うつ気分(うつ病)、爽快気分(双極性障害、躁うつ病)が大切です。躁うつ病の爽快気分とは気分がハイになっていますが、必ずしも楽しいわけではなく、刺激に反応しやすく(易刺激性)、苛々した状態です。


5意欲・行動の障害
躁病性興奮は躁うつ病の観念奔逸から生じ、緊張病性興奮(精神運動興奮)は統合失調症の滅裂思考から起こります。考えがまとまらない程度があまりに酷いと、逆に全く動けなくなり、(緊張病性)昏迷に陥ります。重度のうつ病で、何も考えられないほど意欲が無くなっても、昏迷になります。


6自我意識の障害
外界と自分、意識と無意識の区別がなくなってしまいます。前述のさせられ体験や、苦痛を感じないために、苦痛を感じているこころの部分を切り離す解離症は自我意識の障害です。解離症はひどくなると記憶喪失や二重人格を引き起こします。




A 神経発達症群

知的障害、自閉症スペクトラム、注意欠如多動症(ADHD)はしばしば合併することがあります。特に問題となるのは感情をコントロールしにくいケースです。 → 刺激を減らし周囲の環境を整えることがまず治療対応として重要です。

知的障害
抽象概念が扱えるか(大きな額のお金を扱えるか、明日、1週間後といった未来の計画を立てることができるか)、その結果として、自立して生活できるかが、一つの目安になります。

自閉スペクトラム症
他人の心が読みにくいため、周囲とうまく関われないことが多いです。
感覚過敏(気にしない部分は鈍感、細部に拘り全体が把握できない)がベースにあって、社会的コミュニケーション、対人的相互反応における持続的な障害、興味や活動が限定的で反復的といった特徴が生じます。

注意欠如多動症(ADHD)
衝動性が強く、すぐかっとなって喧嘩してしまうことがしばしば問題になります。
大人のADHDの場合、特に女性で不注意優位のADHDが見過ごされがちです。自己質問紙などでスクリーニングします。



B 統合失調症  

脳の働き(考え、気持ち、意欲行動)がまとまらなくなる病気です。
(P35 自我意識の障害も参照)

幻聴と妄想が生じるのは
内界では→ 自生体験(内的欲動を制御できない)→ 自己不全感と恐怖
外界には→ 感覚過敏、気づき亢進、しだいに被注察感(不要な情報を遮るのが困難、どれが大事か、取捨選択しにくい)

自生体験(自生思考)はP32思考体験の異常も参照
被注察感は注察妄想、P31妄想の内容による分類も参照

P74表3-2「統合失調症の病期と治療内容」を参考にして、統合失調症の急性期、回復期に対する適切な治療対応を考えてください。薬の副作用も注意(パーキンソン症状、鎮静、体重増加、高血糖など)

 急性期には、本人の訴える幻聴や妄想を否定しない。「私たちにはわからないが、あなたにはそう聞こえるし、思えるのですね」というスタンスで、「医療者は味方であり、あなたは安心して休んでいいのだ」ということが伝わるように接する。

 回復期以降は、疾患教育として例えば、対人関係で被害的になりやすいくせを修正したり、嫌なことをうまく断ったりするための心理療法等も行っていく。
 服薬は必要だが、手が震えるなどのパーキンソン症状が出たら、医師に減薬をお願いしたり(ここでも対人関係のスキルが重要)、薬の副作用で太ったり、生活習慣病になることも留意が必要。


(参考)中井久夫著「こんなとき私はどうしてきたか」は統合失調症だけに限らず精神看護の姿勢を学ぶのにとても役立ちます。とても実践的なので深く知りたい方へ。




C双極性障害(躁うつ病)

躁うつ病(エネルギーの無駄遣い)とうつ病(エネルギーが枯渇)は異なる疾患です。
躁うつ病ではエネルギーの配分をコントロールできないのに対して、うつ病はそもそも使うエネルギーがない状態。
躁の誇大妄想  苛々しながら逸脱行為があり、時に生命の危険があります。
うつの罪業妄想 趣味も楽しめない。生きることに飽きて退屈。自殺念慮。


うつ病や不安症などの発症プロセスには、自律神経(自分の意志とは関係なく生命維持のため働く神経)の異常が関与しています。自律神経には運動時に主に働く交感神経と、休息時(リラックスしている時)に働く副交感神経があります。過度のストレスによる交感神経の亢進から、イライラや緊張が続き、抑うつや不安が慢性化していきます。



D抑うつ障害(うつ病)

重症度の評価 → 自責感から自殺念慮へ
入院治療の条件 心理教育、認知の歪みを修正する認知行動療法も大切
Eの不安症と共存、 Iの身体症状症と症状が重複

P85 治療導入時の心理療法的配慮
うつ病とは何かを伝える(疾患教育 なまけではなく脳の病気)
睡眠の確保、脳の休息。周囲のサポートを得て一人で考えない。別の視点を導入。
(追い詰められて「死にたい」、「消えたい」以外の選択肢が頭に浮かぶように)
症状は一進一退、波がある。自殺禁止。重大な決定(転職、離婚など)は先送り。
薬の副作用(多いのは吐き気、便秘等)も注意。



(参考)笠原嘉(みよし)著「軽症うつ病」は一般書なので安いし、とても読みやすいのに、名大精神科の医局で研修医に配るくらいちゃんとした教科書です。




E不安症

パニック症 ー 過呼吸(喘息との鑑別)、胸苦(狭心症との鑑別)

社交不安症 ― 対人恐怖

全般不安症 ― 過覚醒、過度の筋緊張→複雑性PTSDが隠れていることも。



F強迫症

無駄だと分かっていてもやめられない
不安を伴わないこともある。病識がない場合もある チック症との類似
P31思考体験の異常を参照




G心的外傷後ストレス障害PTSD (P100-101が重要です)

①再体験      無意識にトラウマ体験を思い出す
②回避     無意識に被害を忘れようとして記憶や感情が損なわれる(麻痺)
③過覚醒      不眠、苛々、ちょっとしたことに過剰に反応、警戒心が強い

 大きなトラウマを受けた場合、人に話せません。①再体験症状は口にできず、それに関する記憶や感情は、②回避によって、あいまいになります。
 しだいに、不自然なイライラ、かんしゃくを起こしやすい(③過覚醒)といった形で対人関係に支障をきたすようになり、一方で、自分は罪深いから不幸になって当然(認知の歪み)と考えて、抑うつを呈します。だんだんと、自然な愛情を感じられず、交友関係を築けなくなっていきます。


単回のトラウマではなく、養育者による虐待等によって慢性的に進行し、本人が自覚しにくいものとして複雑性PTSDがあります。その場合は被害から数年以上たって、被害を自覚できるようになってから発症することもあります。

PTSDは誰でも起こり得る症状であり、被害を受けた当初は、「仕方なかった」、「あなたに落ち度があるわけではない」ことを理解してもらう。安心できる場所があり、支えてくれる仲間がいる環境を作る。そのうえで自分自身に対する信頼を取り戻し、トラウマに向き合えるようにしていくことが治療の最終目標です。


(参考)白川 美也子著「赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア 自分を愛する力を取り戻す〔心理教育〕の本」が非常にお勧めです。複雑性PTSDの治療について一番簡単で詳しい本だと思います。
 ティム・オブライエン著 村上春樹翻訳「本当の戦争の話をしよう」も、村上春樹をある程度読んでいる方に特にお勧めします。PTSDについての古典的名著、ハーマンの「心的外傷と回復」に多く引用されているフィクションの体裁のノンフィクション。これらはすべて桑名市図書館、ないし中規模の図書館にあります。



適応障害は何らかの環境ストレスによって、うつ、不安症に似た症状を呈します。

反応性愛着障害、脱抑制型対人交流障害は、養育環境が劣悪なために、人との関わりがうまくできず自閉スペトラム症と似た兆候を示します。



H解離症

苦痛を感じないために、心のある部分を切り離す
P35 自我意識の障害と、P105人の一貫性と解離を比較して読んでください。



I身体症状症

身体症状症 胃が痛くて精神的にもつらい
病気不安症 胃が痛くならないか考えすぎて精神的につらい
変換症 解離によって身体症状が起きる



J摂食障害

ボディイメージの障害
拒食症と過食症は交互に繰り返すことが多い。
幼児期の環境要因(虐待など家族関係の問題)が先行因子として重要。
持続因子として、家族の心配、高い感情表出(親の高い期待、ないし叱責)

身体合併症
拒食症では、やせ(るいそう)、無月経、除脈、低血圧。
栄養不足による浮腫(むくみ)、腎機能障害、肝機能障害
過食嘔吐の繰り返し、下剤の乱用があれば、電解質異常(低カリウム血症)から不整脈。
精神面でも頑固さ、融通の利かなさ、抑うつ、不安、こだわり(強迫症状)が出現

治療対応
患者の不安を受け入れ、太ることへの恐怖感を傾聴。あたたかく忍耐強い態度、一貫性のある態度で接する。



K睡眠覚醒障害

入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒のどれか1つ以上があり、日常生活に困る状態。
高齢者は睡眠時間が減る。特に男性では前立腺肥大による排尿覚醒が増える。



L依存症(物質使用、嗜癖)

アルコール、薬物、ギャンブル、ネット依存、買い物依存、窃盗癖
暴力、虐待、性的逸脱行動、摂食障害も依存、嗜癖の側面があります。

薬物依存

アッパー系  覚せい剤、コカイン、ニコチン、カフェイン
脳の働きを活性化→切れると神経過敏になり不安、妄想も

ダウナー系  モルヒネ、ヘロイン、アルコール、睡眠薬
脳の働きを抑え不安を和らげる→切れるとけいれん、幻覚も

サイケ系 大麻、MDMA、LSD


アルコール依存症の死因としては、飲酒して転倒を繰り返すことによる慢性硬膜下血腫。アルコール性肝硬変から、食道静脈瘤の破裂による出血性ショックが重要。

治療法としては、自助グループへの参加を促します。
断酒会、AA、ダルクなど。病院に当事者会、アルコール専門のデイケアも。

(参考)松本俊彦著「世界一やさしい依存症入門」が非常にお勧めです。桑名市図書館にあります。



M神経認知障害

記憶障害、見当識障害がしだいに進行していくのが認知症、急激に起こって原因が取り除かれたら治るのがせん妄。最初から知能が低いのが知的障害です。時間経過による症状の変化に留意。

せん妄
基礎疾患の治療を優先する。
適切な睡眠、適切な薬剤の投与(不要な薬剤の中止)

認知症
アルツハイマー型が6割だが、次いで脳血管性、レビー小体病(幻視、パーキンソン症状がある)、前頭側頭型(性格変化がみられる)が多い。


高齢者のうつ病でも見かけ上の記憶障害が起こります。認知症との鑑別が必要。
うつ病では、自信がないため、分かる質問にも「わかりません」と答えがちですが、認知症の場合は、わからないことを誤魔化そうとして作話をする(でたらめな答を自信満々で答える)場合があります。



N境界性(情緒不安定性)パーソナリティー障害

P138 表3-10参照。
大雑把に言えば、社会で生きていくスキルが身についていない人たちを指します。
自閉スペクトラム症や複雑性PTSDとの鑑別が非常に難しいです)

両親との関わり、友人関係、異性との関係という発達段階を通過していないことが多く、自他の考えを区別できていない。人間には善悪両面があることを理解しがたい。
自らの中の悪を他者に投影する(押しつける)傾向があります。


見捨てられ不安(捨てられるのを恐れるあまり、恋人が自分を見捨てると非難)
理想化とこき下ろし(要求が次第に大きくなり、要求が通らなくなると非難)

スプリット思考
最初は患者が「治すために入院したい」というから入院になった。しかし入院すると「苦しいから退院したい」、主治医が「入院させようとする」と主張。「退院したい」気持ちも「入院したい」気持ちも患者のもの。だから患者に返す。退院したければ自分の判断で退院させる。

治療対応としては、今、ここで。具体的な生活場面で現実の問題を扱う。内省できるまで待つ。自分で気づけるよう手助けする

問題のすり替えに治療者が気づく。
生育歴、過去の親子関係より、現在の友人関係、恋愛、仕事、体の不調を取り上げる。
自傷他害、退行的な行動より、具体的な生活場面を取り上げる。「どうして手首を切ったの」→「学校の人間関係でどのように困っていたの」

大変な問題だと共感はするが、具体的なアドバイス、批判は控える。
→治療目標を明確に(手首を切ることを減らす 薬物乱用を減らす)
患者の気持ちを引き受けすぎない。最終的には患者に主体性、責任を負わせる。



自閉スペクトラム症とパーソナリティー障害の鑑別は重要。両者とも風変わりで理解しがたい人々であることが多いが、自閉症では集団行動の型にうまくはまると次第に落ち着くことが多い。一方、パーソナリティー障害は型にはめられると激しく拒否する傾向があります。